遺留分とは?
遺産が遺言書などによって不平等な分け方となっている場合、取り分が少ない相続人に対して最低限の相続財産を保障する制度です。
どんな場合に遺留分があるか
■不平等な遺言がある場合
例えば父親が亡くなり、子ども2人(Aさん・Bさん)が相続人になっている場合で、Aさんに全ての財産を相続させるという遺言書があると、Bさんは何も相続できず不平等な結果が生じます。これでは何も貰えないBさんは納得できません。
そこで、民法はこのような不平等を正すために、Bさんにも遺産のうち4分の1まで、Aさんから取り戻す権利を認めています。また、遺言書でBさんも少し相続したが、4分の1まで満たない場合にも、4分の1まで取り戻すことができる権利は発生します。このように、法律上の相続人に与えられた権利が、遺留分(=遺留分減殺請求権)です。
■生前に財産のほとんどが贈与されていた場合
遺言書で取り分がAさんに渡っていた場合には、Bさんが取り戻せることは分かりました。では遺産となるはずだった財産が、父親の生前に全てAさんに贈与されていた場合どうなるのでしょうか。このような場合でも、Bさんに何も取り分がなく不平等であることは遺言書がある場合と同じです。
そこで、民法は、生前に多額の贈与がある場合でも、その不平等を解消するべく、贈与を受けた者に対して、遺留分で取り戻すことを認めています。
贈与を受けた者は、相続人でも相続人以外でも構いませんが、相続人以外であれば、原則として死亡前1年以内のものに限られます。(ただし亡くなった人と贈与を受けた者が双方遺留分を侵害することを知りながら贈与していた場合には、1年以内の贈与でも遺留分を請求できます)他方、相続人に対する贈与は、死亡1年以上前の贈与でも遺留分の請求ができます。
遺留分を請求できる人(遺留分権利者)とは?
遺留分を請求できる人は以下です。
- 不平等な扱いを受けた相続人
- 兄弟姉妹以外の相続人であること
- 遺留分減殺請求を現実に行使した相続人
1.不平等な扱いを受けた相続人
遺留分は、前述のとおり不平等な扱いを受けた相続人に発生します。
したがって、生前贈与や遺言書等で遺留分割合を超える財産を受け取っている場合には遺留分は発生しません。
2.兄弟姉妹以外の相続人であること
亡くなった人の兄弟姉妹は、遺留分が請求できません。
例えば亡くなった人の配偶者が全ての財産を相続したり、贈与を受けていたりしても、亡くなった人の兄弟姉妹は配偶者に対して遺留分を返せということはできません。逆に、亡くなった人の兄が全ての財産を相続した場合には、配偶者は遺産の2分の1まで遺留分を請求できます。
3.遺留分減殺請求を現実に行使した者であること
遺留分を請求するには、遺留分義務者、つまり多くの遺産を受け取っている者に対して「遺留分減殺請求を行使する」という意思表示を行った者のみに発生します。黙っていても貰えるわけではありません。
例えば父親が他界した場合、子ども3人(Aさん、Bさん、Cさん)のみが相続人。Aさんだけが全ての財産を相続したというとき、Bさん、Cさん共に遺留分が計算上発生します。しかし、BさんのみがAさんに対して「遺留分を返してください」と伝え、Cさんが何もしないとCさんは遺留分を受け取る権利がないことになります。
遺留分請求の期限
計算上、遺留分がある場合でも、現実に「遺留分を返して」を言わないと発生しないことは、上述のとおりです。
「遺留分を返して」と言うのは、いつでも良いというわけではありません。
民法上、不平等な相続があったことを知った日から1年以内、又は亡くなった日から10年以内のいずれか短い期限で、遺留分は時効により消滅します。不平等な相続があったことを知った日とは、例えば遺言書の内容を知った日だったり、遺産のメインである不動産の生前贈与が行われていたことを知った日だったりです。 亡くなった日から1年以内に遺留分を請求していれば、時効により消滅することはあり得ません。遺留分を請求するにあたり、余計な争点を増やさないためにも当事務所では、亡くなった日から1年以内に「遺留分を返して」と伝えることをお勧めします。
遺留分請求の伝え方
遺留分請求には期限があるため、遺留分を請求した場合には「遺留分を返して」と伝えたこと、伝えた時期をきちんと証拠化しておく必要があります。また伝える方法としては、いきなり「遺留分として○○円返せ」など、具体的に言う必要はありません。「遺留分を減殺します」と伝えれば必要十分であり、一度伝えてさえいれば、後はじっくり検討してから金額を請求すれば良いのです。ろくに調査もせず金額を書いてしまうと、その後の交渉が難しくなるため、まずは必要最小限度の請求をすることをお勧めします。
遺留分の割合
不平等な遺産の分け方がある場合、誰がどれだけ遺留分を持っているか(遺留分割合)は、相続関係によって異なります。
相続人が配偶者の場合

相続人が配偶者のみであれば、その配偶者は2分の1の遺留分権を持ちます。
相続人が子どものみの場合

相続人が子どものみの場合、その子どもは、2分の1の遺留分権を持ちます。ただし、子どもが複数になる場合には、2分の1を更に子どもの数に応じて等分します。したがって、相続人として子どもが3人いる場合、遺留分は一人当たり6分の1となります。
相続人が親のみの場合

親は3分の1の遺留分権を持ちます。両親ともに健在の場合、父親・母親はそれぞれ6分の1ずつの遺留分権を持ちます。
相続人が子どもと配偶者の場合

子どもと配偶者は、4分の1ずつ遺留分権を持ちます。
子どもが3人のときは、子どもは一人当たり12分の1ずつ、配偶者は4分の1となります。
相続人が配偶者と親の場合

親は6分の1、配偶者は6分の2の遺留分権を持ちます。
両親とも健在の場合、父親と母親はそれぞれ、12分の1ずつ持つことになります。
相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合

配偶者は、2分の1の遺留分権を持ちます。
他方、兄弟姉妹には遺留分権がそもそもありません。
遺留分の計算方法
遺留分の計算は複雑
遺留分の計算方法は、最高裁判所の判例で以下のように定まっています。
「被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに同法一〇二八条所定の遺留分の割合を乗じ、複数の遺留分権利者がいる場合は、更に遺留分権利者それぞれの法定相続分の割合を乗じ、遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときは、その価額を控除して算定すべきものであり、遺留分の侵害額は、このようにして算定した遺留分の額から遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合は、その額を控除し、同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定するものである」
非常に難解な表現です。慣れていないと弁護士ですら分かりません。
簡単な表現に直すと、
- まず、亡くなった時の財産額に生前贈与された財産額を加える。
- 亡くなった人に借金があった場合には、その借金を1の額から差し引く。
- 2で計算した額に遺留分割合を掛ける。
- 3で計算した額から遺留分を請求している人が既に相続したり、贈与を受けたりした額を差し引く。
- 亡くなった人の借金のうち、遺留分を請求している人が受け継ぐ分を4の額に加える。
このように遺留分は複雑な計算方法であり、多く相続した相続人が複数いる場合や生前贈与が繰り返されている場合には、更に知識を必要とする計算となります。
遺留分に精通する弁護士に依頼するメリット
弁護士・司法書士・行政書士の違い
■弁護士
弁護士は、協議・書類作成・裁判所での代理行為など、全ての法律問題に関するオールラウンダーです。
特に、家庭裁判所・地方裁判所での代理行為については、司法書士や行政書士に権限はなく、弁護士にしかできません。
■司法書士
司法書士は、書類作成や請求額が140万円以下の場合の代理行為は行うことができますが、弁護士よりも裁判手続に精通している方は中々いませんし、そもそも家庭裁判所や地方裁判所では代理行為ができません。司法書士は、登記や供託など法務局に対する手続の専門家です。
140万円以上の遺留分の請求に関して、司法書士が報酬をもらって代理業務を行う場合には、刑罰の対象となります。
■行政書士
行政書士は、役所に提出する書類の作成をするのが主な業務で、内容証明郵便等の書類作成代行はできても裁判所に提出する書類の作成や代理行為はできません。行政書士が、遺留分の請求に関して代理業務を行うと刑罰の対象となります。また遺留分に関して、裁判所で争った経験がなければ的確なアドバイスができないことは言うまでもありません。
遺留分は複雑
遺留分は、弁護士になるための試験(司法試験)で出題の対象となる分野ですが、あまり試験に出題されることはなく、この点に関する知識が薄い弁護士もいます。加えて近時では、遺留分に関する重要な最高裁判所の判断が続けて出ています。弁護士でも、絶えず研鑽を積まなければちんぷんかんぷんな主張をしてしまいかねないのです。また遺留分の計算は複雑であり、弁護士ですら経験が浅いと時間を掛けて考えないと理解は困難です。ましてや一般の方となると、一から勉強しなければなりませんし、訴訟を提起するとなると、ほとんどの方が不可能でしょう。
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