平成30年7月,相続法の大改正が行われました。
こちらのページでは、その一部をご紹介いたします。
遺留分請求権の内容の変更
遺留分減殺請求権が、遺留分侵害額請求権という名称に変更になりました。
もちろん、名前だけが変わっただけではなく、2019年7月1日以降に亡くなった方の相続の場合には、これまでとは全く異なるルールとなっています。
例えば、生前贈与が遺留分に影響を及ぼす場合を制限し、基本的に他界前の1年間以内に行った贈与(相続人に対する贈与は10年以内)のみが影響します。例外規定も設けられていますので、遺留分請求をする側にとっても、遺留分請求を受ける側にとっても、例外規定を踏まえつつ、旧法とは異なるルールで主張を展開する必要があります。
また、従来は遺贈や贈与があったことを知って1年以内に、遺留分請求をする旨さえ通知していれば、請求権が時効により消滅することはまず滅多にありませんでした。
しかし、今回の改正により、遺留分を請求することを通知しても、その後5年経過するとせっかくの遺留分侵害額請求権が時効により消滅してしまう可能性があります。
遺留分請求が改正されたことを踏まえた、的確な主張が必要となります。
遺産分割の制度
1. 相続開始後に引き出された遺産に関する規定の新設
部の相続人が、相続開始後に、預金等を他の相続人には無断で引き出してしまった場合、引き出した相続人以外の他の相続人の全員が同意すれば、遺産に戻すことができることとなりました。
亡くなった方の財産を管理していた相続人が預金を引き出していたことが分かった場合には、改正された相続法を適用して、対処することが必要です。
2. 預金の一部払い戻し
相続が発生すると、ご葬儀の費用が発生します。また、相続開始後4カ月以内に亡くなった方の所得税の支払、相続開始後10カ月以内に相続税の支払等、納税義務が生じます。
ところが、遺言の有効性や、遺産分割等で揉めてしまうと、亡くなった方の預金が凍結されてしまい、引き出すことが困難になる場合があります。従来の相続法では、このような場合、葬儀費用や相続税の支払について、遺産である預金があっても、相続人は、ひとまずは自らの財産から支出しなければなりませんでした。
そこで、今回の法改正で、一定の要件のもと、預金の一部を遺産分割や遺言の紛争があったとしても、引き出すことを可能にしました。引き出すことができる限度額や、引き出した後の効果についても、規定されています。
紛争が発生していて、預金の引き出しが難しくなっている場合で、相続税や葬儀費用等が多額のため、手元の資金では賄えないとき、弁護士に相談されることをお勧めします。
3. 遺産の一部分割
従来、遺産分割をする際には、全ての遺産について協議しなければならないのか、それとも一部のみの遺産分割が可能なのかについて議論が分かれていました。しかし、今回の改正で、一部の分割が可能であることが明文化されました。
遺産の中で、一部の不動産だけでも先に売却して、相続税の資金としたい場合等、当該条文を用いて、対応することができます。
特別寄与料請求
今般の相続法改正により新設された制度です。相続人の親族で、かつ亡くなった方を生前に介護したなどの特別な貢献を行い、亡くなった方の財産の維持・増加に努めた方は、相続人に対して、相続財産の一部を分けてほしいと主張する権利があります。基本的には被相続人の他界後6ヶ月以内に請求を行う必要があります。
特別寄与料の請求を行う場合には、早めに対応しておくことが必要です。
遺言書の作成方法・保管方法
手書きする遺言の作成方法について、全て手書きする必要は無くなる等、簡素化されました。
また、手書きの遺言を法務局が保存する制度が新設され、実施されています。
遺言を保存してもらう場合のメリット・デメリット、手書きの遺言にするか、公正証書遺言にするかの判断基準に変動が生じています。
遺言書作成を検討されている方は、内容面の検討に加えて、どのような作成方法にするか、法務局に保存してもらうかどうかについても、弁護士などの専門家に相談されることをお勧めします。
配偶者の保護
1. 配偶者居住権(2020年4月1日から施行)
亡くなった方の配偶者の生活維持を図るための改正です。
同居していた配偶者の居住権を確保しつつ、配偶者に現金預貯金を多く相続させたり、多額の遺産を有する方にとって、相続税対策となったりします。
遺産分割手続で決めることもできますし、遺言によって設定することもできます。
遺言書の作成をお考えの方で、複数の不動産を所有していて相続税対策が必要な場合には、配偶者居住権について一度検討した方が良いと思われます。
また、遺産分割で配偶者の居住権を保護しつつ、他の遺産について、相続したいと 考えておられる同居配偶者の方も検討された方が良いでしょう。
配偶者居住権が成立するかについては、様々な条件がありますので、上記のような方は弁護士に相談されることをお勧めします。
2. 20年以上の夫婦間の居住用不動産の贈与・遺贈
20年以上夫婦として生活していた場合には、居住用不動産の贈与を受けたり、遺言で取得したりしたとき、遺産相続の際に特別に扱われます。
具体的には、居住用不動産を遺産として扱わず、他の遺産を法定相続分に応じて受け取れることとなります。「持ち戻し免除の意思表示を推定する」という規定が新設され、上記のような効果が生じます。
居住用不動産を遺言や生前贈与により取得した配偶者が、他にも遺産を取得した場合には、この規定の適用を踏まえて、主張をしていく必要があります。
また、遺言書を作成される方にとっても、この点を踏まえた内容の遺言を作成した方がよいでしょう。
相続登記
従来の相続法では、不動産を「相続させる」旨の遺言があれば、他の相続人が第三者に不動産を譲渡しても、相続を受けた相続人が取り返すことは容易でした。しかし、今般の改正により、登記をしなければ、他の相続人が無権利で譲渡した第三者に対して、返還を求めることができなくなりました。
そのため、遺言書がある場合でも安心できず、早期に登記を行うことが肝要です。
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